十二期生 / 宮川栞奈 / 研究活動

Posted on 2024-01-18
HCGシンポジウム2023で発表しました(M2宮川)


松下研究室M2の宮川栞奈です. 
2023年12月10日(月)〜12月13日(水)に北九州で開催されたHCGシンポジウム2023に参加しました. 
HCGシンポジウム2023:https://www.hcg-ieice.org/hcg-symposium/2023/

 

発表内容

タイトル:物語の展開にともなう登場人物間の関係性変化の可視化手法
発表者:宮川栞奈,松下光範,山西良典
概要:本稿では,物語構造を把握可能にするために,変化する登場人物間の関係性を可視化する手法を提案する. 人物間の関係性を可視化する手法に相関図があるが,その多くは静的であり関係性がどのように変化するのかは分からない. また,物語には「読者が読み進める時間」と,「物語の登場人物の過ごす時間」という2種類の時間軸が存在するため,作品を読み進める時間軸に沿った関係性の変化を可視化するだけでは物語の構造を十分に把握することが難しい. 提案手法では,人物間の関係性をネットワークで表現し,このネットワーク構造を時間変化に伴って変化させる. このとき,「作品を読み進める時間軸」の操作に連動して,「物語内の時間軸」上での人物間の相関図を提示することで,異なる2種類の時間を対応付けながら物語を把握可能にする. 本稿では,提案手法のデザイン指針と活用可能性を議論する.  

 多くの物語が生まれていますが,実はもとを辿れば共通する構造があります.ウラジミール・プロップはロシアの魔法物語を構造的に研究し,その中で共通する機能を見つけ,全てのロシア物語は31に分類できると提唱しました.
主人公とヒロインは恋愛関係にあるが,その周囲が敵対している構造は悲劇系の物語になるように,物語には共通する構造がありその構造を軸足にオリジナリティやアイディアを付け足すことで新しい物語作品に繋がります.
0からの創作ではなく,既存作品の物語構造を理解し,分析することで新しい作品の創作に繋がる考え,本研究は物語構造を把握できる支援ツールの作成を目指しました.
 物語構造把握のために着目したのは登場人物間の関係性です.
登場人物が主人公一人では物語が成り立つことが困難であり,人物間で対立が起きる,恋におちる,裏切るといった関係性の変化が物語を進展させるということから,登場人物間の関係性の遷移を確認できると物語構造の把握に繋がると考えました.
登場人物間の関係性を把握する方法として相関図があります.
人物間や物の繋がりを容易に把握できるますが,多くは静的であるため,理解するのに複雑な図になる,関係性の変化が「いつ起きたか・どんな変化が起きたか」がわからないという問題があります.
 また,物語における時間の仕組みが複雑であり,ジュラール・ジュネットによると物語において時間の概念は2つの時間存在すると言われています.
物語に登場する人物達が過ごす時間である物語内容と,読者が物語を読み進めるテキスト上の時間である物語言説という概念があり,これらの時間の配置は必ずしも一致しないことが多いです.
例えば,ある出来事が物語の中でA→B→C→Dの順番で起きたとしても,物語を語る場合に必ず生起順に語る必要がなく,C→D→A→Bと語ることができます.
これは,物語の出来事を語る順番を変えることで,物語の構造も異なることを意味します.
殺人が起きる出来事を一番初めに語るとサスペンスの物語構造に,一方で殺人が起きる出来事を最後に語ると推理の物語構造になり,物語内容と物語言説が異なると,物語が異なります.
このことから,物語構造を理解するためには出来事の順序も考慮できる方法が必要となります.    
以上のことから,物語構造を把握するためには,登場人物間の関係性の変化をテキスト上の時間のみならず,物語内の時間でも簡潔に把握できるようの手法が求められると考え,満たすべき要件を3つ定義しました.
  1. 個々の登場人物がそれぞれ異なる複数の関係をもち,複雑になりかねないので,登場人物の関係性を端的に理解できることが必要
  2. 静的な相関図では登場人物間の相互作用の時系列を隠してしまうので,時間変化に伴う関係性の変化を把握できることが必要
  3. 物語言説と物語内容の時間は一致しないことが多いので,それらの時間順序を確認できること
これらのデザイン指針に則り,以下の手法を提案しました.
  1. 登場人物を頂点とし,それらの相互作用を辺で表すネットワーク図に可視化
  2. 物語言説の軸にスライダー機能を付与し,関係性変化を提示
  3. 物語言説と物語内容のそれぞれの時間軸を設置し,比較可能にする
これら3つをまとめて,物語言説と物語内容の変化をインタラクティブに可視化し,登場人物の関係性の変化確認できる可視化手法を提案しました.
 1:登場人物をnodeに,関係性をedgeに設定したネットワーク図に登場人物間の関係性を可視化しています.
 nodeの形はクリストファーが定義した登場人物の役割の類型ごとに変えて表示しており,マウスカーソルを合わせると,役割の詳細(例.Hero)や性格要素(例.おてんば)が表示されます. 役割がわかると,主人公を教え導くなど,登場人物が作中で果たす機能や目的をわかりやすくすることに繋がると考え,nodeの形を役割ごとに変えて表示し,性格要素に関しては,喧嘩別れにより,登場人物が自暴自棄になるなど,関係性の変化が登場人物の性格にも影響を与えうるので,性格特徴を考慮して関係性を把握できるようにするためポップアップから確認できるようにしています.
 edgeの関係性はFOAF(friend of a friend)という人間関係を語彙的に説明するオントロジーの拡張版であるRELATINOSHIPを参考に,関係性ラベルを作成し,ラベルと類似する単語を人手で原作から収集して割り当てています. また,“片方の登場人物が好意を抱く一方,もう片方は嫌ってる“など,双方向の関係性がわかるように有向グラフで表現しています.
2:物語言説の時間軸に配置されたスライダーは,登場人物間の関係性が変化,登場人物が増減した話数を範囲に指定し,物語のトータルの登場人物間の関係性の変化をユーザの手で確認可能にしており,スライダーを動かすと,可視化される関係性が変化していきます. 3:物語言説と物語内容のそれぞれの時間軸を設置し,これらの時間の一致や相違など,どんな時間構造であるか確認可能にしています.物語言説は1話,2話と,順番に時間が配置されていますが,物語内容の時間軸を確認すると,10が1よりも前の軸に配置されていることから,10は過去の出来事であることがひと目でわかります.    現在は,どのように見せると物語構造を把握できるか,可視化に主眼を置いています.
今後は可視化した構造ごとに,非愛もの,ロマンスものといった分類を行うことや,ある構造にどんな登場人物を追加すると,物語の起伏になるかといった,プロット制作の支援を目指していきたいです.

発表資料:

KannaMiyagawa_HCG2023_A Visualization Method for Variation of Characters’ Relationships Along with Story Developments from Matsushita Laboratory


感想

コロナの影響でオンライン発表ばかりでしたが,とうとう遠戦することができました.
北九州は12月でも結構気温が高く,それも相まって発表時は汗が止まらなかったです.

訪れた門司港はレトロな雰囲気を味わうことができました.鬼滅の刃の聖地と噂があり,確かにそれっぽい風景がありました.

あるあるcityにある漫画ミュージアムでは,北九州市ゆかりの漫画家の作品を収集・保存・展示されており,漫画の魅力を紹介するコーナーや,過去の代表的作品から現代の人気作品まで読むことができました.時間の都合で30分しか滞在できなかったため,展示物をじっくり見ることや,漫画を読むことができなかったのが残念でした.

 

 このような経験を積む機会を与えてくださった担当教員の松下光範先生,そして共著者として支援してくださりました山西良典先生に感謝いたします.
追記.帰りの新幹線で充電コンセントがないことに酷く絶望しました.
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